人は風邪をひいて高熱が出れば体が辛くて仕事を休むし、食欲にまかせて食べ過ぎ腹痛になれば食う気が失せてしまうものです。これらは体を守る安全弁で、症状が自覚出来るので一層重大な病気にならないのです。同じような現象は、投資や会社経営等のリスク分散にも見られます。
X社(建設資材の製造卸、本社東京)は25年前、大規模な物流基地を宮城県に設けました。その数年後、バブル経済の崩壊によりその物流基地の維持が難しくなり、やむを得ず規模を半分に縮小して何とか乗り切りました。その後、業績は回復しましたが、大規模な物流基地を一か所に集中させることは危険と考え(大規模団地の造成が減った)、栃木県にもう一か所設けて迅速な供給を続けてきました。さて、昨年の東日本大震災により、宮城県の物流基地が機能しなくなり、栃木県の物流基地が不十分ながら東北地方の物流を支えることになりました。結果として、物流基地の分散が安全弁となったのです。この事例は偶然の成り行きがX社に幸いしたように見えますが、経営リスクの分散に対する経営陣の心構えが貢献したと思います。X社の経営陣が大震災で得た教訓は、「大きな経営決断は、長期的にあらゆる状況を想定してリスクを分散し、問題発生時の安全弁を確保しておくこと」でありました。