日頃の交際や商取引等は、お互いが相手に譲る気持ちを持って成り立っています。自己の言い分だけでなく、相手の主張を理解しようとする気遣いと言ってもよいでしょう。例えば、民事紛争の多くが任意の協議や裁判所の調停等で解決していますが、日本の社会制度全般が相手に譲る精神を基盤にしています。ところで、他人に一歩譲ることは、自信の無い交渉における弱腰と排斥される事があります。しかし、実は一歩譲ることは、後に大きく前進する伏線になるのです。
家族経営のA電器店は、店主が週2回決まった曜日と時間帯に商圏内を車で巡回します。お得意様を中心に声が掛かり、家電品の修理や電球交換等多種の依頼を受けますが、部品代以外は無料です。車両・燃料費等の諸経費を考えると赤字ですが、圏の人々に店舗名や店舗のサービスレベルが理解され、効果的な広告宣伝にもなっています。また、商品価格は大型店に負けますが、中高年者を中心にA電器店の商品を購入する人が増えているのです。お客さまも自分の利益を譲って、価格の高低よりも後日A店の巡回サービスが受けられるという期待を優先しているのです。結局、譲り合うことはお互いの為です。商売には謙遜が付き物です。いつの時代も、高慢や独り善がりで商売が繁盛したことはありません。譲る精神が慶福を呼びます。