子供のころ、学校の帰り道でこんな見聞をして感動した覚えがあります。例えば、左官(かべ屋と呼んだ)が巧妙な手つきですばやく壁を塗る姿、農民が並んで踊るように田植えをする姿、竹細工屋が手品のようにカゴを編んでいる姿、等です。長年に亙る仕事の鍛錬で習得したのでしょう。
現代も、仕事に熟練するまでには長い時間を要しますが、上記のような他人の仕事を見る機会は減っているようです。家内工業的な仕事が減り、他人の仕事を観察出来る環境が少なくなっているからでしょう。仕事に熟練出来る過程は、その業務や時代によっても違いますが、建築・農業・飲食等を例にすれば、大体次のようになります。
(1)第一段階:初歩的な下働きを素直に実行し、頭を使うことよりも手足を動かすことを心掛ける。
(2)第二段階:仕事に慣れ、ややマンネリ化を感じるようになったら、仕事の技法や進め方等を工夫し、上の者から頼りにされるような職業人を目指す。
(3)第三段階:一人前と扱われるようになったら、尊敬される人間性と独自の技術を形成する努力(朝鍛夕錬の工夫)を積むことになる。
『論語』(岩波文庫参照)に、「一以てこれを貫く」とありますが(生き方や方針を一貫するという意味もある)、人が鍛錬して本当に習得出来る仕事は一つかもしれません。